インバウンドは誰が来ているか — 国別の旅の違いと福岡の顔ぶれ
「インバウンド」とひとことで言っても、韓国から週末に来る家族と、ドイツから2週間かけて周遊する夫婦では、泊数も予算も宿の選び方もまったく違います。宿を設計するときに「誰が来るのか」を国・地域ごとに分けて見ておくと、部屋の広さ、ベッド構成、設備の優先順位が具体的になります。この記事では、観光庁・JNTO・福岡市の2025〜2026年の統計から、主要な国・地域の旅の違いと、福岡に来ている人の顔ぶれを整理します。
SUMMARYこの記事で分かること
- 全国の訪日客の上位国・地域と、福岡市の入国者の顔ぶれがどう違うか
- 韓国・台湾・香港・中国・欧米豪で、泊数・予算・同行者・予約の決め方がどう違うか
- その違いを、部屋の広さ・チェックイン・設備・料金・言語の優先順位にどう落とすか
まず整理:全国の数字と国別の位置関係
2025年の訪日外客数は4,268万人で過去最高でした。上位は韓国946万人(22.2%)、中国910万人(21.3%)、台湾676万人(15.8%)、米国331万人(7.7%)、香港252万人(5.9%)です。
2026年に入って構図が変わりました。1〜7月の累計は2,453万人で前年比1.7%減ですが、中身を見ると中国が56%減、韓国が20%増、台湾が22%増。中国政府の渡航注意喚起と減便で中国からの来訪が急減し、韓国・台湾が穴を埋めている形です。7月は韓国だけで89.5万人、台湾も単月で過去最高でした。
国・地域別の違い:泊数・予算・同行者

観光庁の「インバウンド消費動向調査」2025年確報から、宿の設計に関わる項目だけ抜き出します。
| 国・地域 | 平均泊数 | 1人あたり支出(うち宿泊費) | 同行者で多いもの | リピーター率 |
|---|---|---|---|---|
| 韓国 | 4.0泊 | 10.5万円(3.6万円) | 家族30%・友人27% | 84% |
| 台湾 | 6.5泊 | 18.4万円(5.9万円) | 家族45% | 88% |
| 香港 | 6.2泊 | 22.6万円(7.5万円) | 家族37% | 91% |
| 中国 | 9.1泊 | 24.7万円(7.3万円) | 家族29%・一人26% | 56% |
| 米国 | 12.0泊 | 34.0万円(14.7万円) | 一人34%・夫婦24% | 37% |
| 英・独・仏 | 14〜18泊 | 36〜39万円(16〜19万円) | 一人31〜39%・夫婦24〜30% | 34〜38% |
| 豪州 | 13.5泊 | 38.7万円(約15.8万円) | 家族33%・夫婦31% | 46% |
表の「平均泊数」は、入国から出国までの日本滞在全体の泊数です。複数の都市や宿を合わせた数字で、観光以外の目的(仕事・親族訪問)も含みます。1軒の宿に何泊するかとは別の数字で、宿から見た泊数はこれよりかなり短くなります。
宿の側から見ると、こうなります。
韓国:短く、何度も、直前に決める
日本滞在全体では平均4.0泊ですが、1軒の宿に泊まる日数はもっと短い。私たちの予約台帳では、韓国からの予約は1予約あたり2.4泊で、2泊と3泊で8割を超え、1泊は2割ほどです(国籍別のリードタイムの記事で詳しく)。週末に2〜3泊する形が中心で、「1〜2泊」と書くと短すぎます。個別手配が91%、リピーターが84%で、「初めての日本」ではなく「いつもの週末」として来ます。飲食の事前予約データではリードタイムが約12日と短く、キャンセル率は約40%と最も高い。ただしこれは飲食の予約の話で、宿泊では私たちの実績で韓国のキャンセル率は1割強、他の国と差がありません。直前の予約と取り消しを前提にした料金設定と、チェックインの手間の少なさが効きます。同行者は家族と友人グループがほぼ同じ比率なので、ダブル中心の部屋とシングル・布団で人数を取れる部屋の両方に需要があります。
台湾・香港:家族で来て、温泉に行く
台湾は同行者の45%が家族、団体旅行も18%とやや高め。香港は「20回以上」のリピーターが14%いる超常連市場で、温泉志向が強い。どちらも宿泊の予約は3か月〜半年前が半数近くと早く、家族向けに広めの部屋を先に押さえる動きです。福岡から大分・熊本の温泉地へ短期周遊する層の中心でもあります。
中国:長め、初回が多い、2026年は急減
平均9.1泊と長く、初回来訪が44%と多い市場です。ただし2026年は前述のとおり半減しており、当面は依存しないほうが安全です。
欧米豪:長期、一人か夫婦、宿にお金をかける
米国12泊、英独仏は14〜18泊、豪州13.5泊。宿泊費が支出に占める割合は45〜49%と高く、宿にお金をかけます。一人旅か夫婦が中心で、予約は半年前が珍しくありません(来訪の時期は次の章の季節の表で見ます)。長期なので洗濯機・キッチン・作業できる机の価値が上がり、ホテルより民泊を選ぶ理由になります。
POINT民泊の宿泊者は、訪日客数の順位と違う
観光庁の民泊(住宅宿泊事業)の宿泊実績(2026年4〜5月)では、外国人が62.4%を占め、国籍は米国、韓国、台湾、中国、豪州の順。訪日客数では7.7%の米国が民泊では首位です。長期滞在で「暮らすように泊まる」欧米豪ほど民泊を選びやすい、と読める数字です。ただし全国の数字なので、韓国からの客が最も多い福岡の民泊にそのまま当てはまるわけではありません。
福岡で見ると:顔ぶれと季節の山
全国の構図を福岡に当てはめると、顔ぶれも季節の山も変わります。
福岡に来ているのは誰か
福岡市の2025年の外国人入国者(クルーズ除く)は433万人で、内訳は韓国53.7%、台湾14.3%、中国9.4%、香港9.3%。東アジアで9割近くを占め、米国は1.3%、豪州は0.5%です。全国(韓国22%・中国21%・米国8%)とは顔ぶれがまったく違います。
福岡県の外国人延べ宿泊者数は2025年に842万人泊(前年比14%増、全国6位)。県内での平均泊数は4.4泊で、大分1.7泊、熊本3.1泊と組み合わせて温泉地へ周遊するパターンが見えます。九州観光機構の調査では、九州へのリピート率は香港62%、台湾47%、韓国46%と高く、欧米豪は初来訪が7割超でした。
季節の山は、国によってずれる
JNTOの2025年の月別データから、来訪のピークを並べます。
| 国・地域 | ピーク | 底 |
|---|---|---|
| 韓国 | 12月・1月・10月(連休・週末) | 8月 |
| 台湾 | 7〜8月(夏休み)・10月・1月 | 2月 |
| 香港 | 12月・4月(イースター)・1月 | 9月 |
| 中国 | 8月・1月(春節)・7月・10月(国慶節) | — |
| 米国 | 3〜6月・10月 | 1月 |
| 欧州 | 4月(桜)・10〜11月(紅葉) | 夏・冬 |
| 豪州 | 12〜1月(夏休み) | 8月 |
韓国の底が8月で台湾の山が8月、というように、国ごとに山と谷がずれています。
POINT複数の市場を取れている宿ほど、年間の稼働が平らになる
韓国に寄りすぎた宿は8月と2月が弱くなりやすいので、その時期に台湾・香港の家族連れや欧米の個人客をどう取るかが課題になります。
結論:福岡の宿はどの市場に合わせるか
福岡の宿は当面は「韓国・台湾・香港の家族連れ・グループが、短期でリピートする」市場に合わせるのが基本で、そのうえで欧米豪の長期滞在をどれだけ取れるかが伸びしろです。設計項目ごとに整理すると次のようになります。
| 設計項目 | 主役:韓国・台湾・香港(短期・家族・リピート) | 伸びしろ:欧米豪(長期・一人か夫婦) |
|---|---|---|
| 部屋の広さと人数 | 家族連れが主役なら4〜6名の部屋が軸。ベッドの構成は以前の記事(ベッド別の実効人数)を参考に | 一人旅か夫婦が中心 |
| チェックイン | 韓国の直前予約・深夜到着に対応できるセルフチェックインは必須 | 事前の丁寧な案内で安心する |
| 設備の優先順位 | 短期の韓国なら清潔さと立地と価格 | 洗濯乾燥機・キッチン・Wi-Fi・作業机 |
| 料金と規約 | 韓国はキャンセル率が高いので、柔軟なキャンセル規定と直前割。台湾・香港は早期予約割で先に埋める | 早期予約割で先に埋める |
| 多言語 | 韓国語・繁体字の案内が最優先 | 英語はその次で十分 |
自分の宿に当てはめる前に、次の点を確認しておくと判断がぶれません。
- 現在の宿泊者の国・地域の内訳が、福岡市の入国者の構成(韓国53.7%、東アジアで9割近く)とどれだけずれているか
- 8月と2月の稼働を、どの市場で埋めているか(韓国の底は8月、台湾の底は2月)
- キャンセル規定と直前割・早期割の設計が、韓国の高いキャンセル率と台湾・香港・欧米豪の早い予約に合っているか
- 長期滞在向けの設備(洗濯乾燥機・キッチン・Wi-Fi・作業机)が揃っているか
- 案内文が韓国語・繁体字・英語の順で用意できているか
補足:福岡空港の国際線は過去最高

九州全体の外国人入国者575万人のうち、福岡空港が65%、博多港(釜山航路)が9%。福岡空港の2025年度の旅客は2,883万人で3年連続の過去最高、国際線は900万人超と見られています。中国便の減少を韓国・台湾・香港便の増加が補いました。
参考にした主な一次資料:JNTO 訪日外客数(2025年12月・2026年7月推計値)、観光庁 インバウンド消費動向調査 2025年確報、観光庁 住宅宿泊事業の宿泊実績、福岡市 観光統計 2026年版、九州運輸局 九州への外国人入国者数(2025年)



