東京は常駐、大阪は飽和。福岡で旅館業をやる理由
先に断っておくと、私たちは福岡で運営している会社なので、この記事はどうしても福岡びいきになります。もうひとつ前提として、私たちの物件はほとんどが民泊新法の届出ではなく、旅館業法(簡易宿所)の許可で動いています。年間180日の制限がなく365日売れる代わりに、許可のハードルは高い。この記事は、その旅館業法で事業をやる前提で、東京・大阪・福岡を並べたものです。
SUMMARYこの記事で分かること
- 旅館業法の許可で事業をやると、都市を比べる軸が営業日数ではなく「無人運営が成り立つか」と「物件が買えるか」の2つに変わること
- その2つの軸で見たとき、東京・大阪・福岡がどう違うか
- 空港の高さ制限や出口、弱点といった福岡固有の条件を踏まえて、福岡で旅館業をやるならどんな物件に寄せるべきか
まず整理:旅館業法で見ると、比較の軸が変わる
民泊新法で考えると、比べるのは「何日営業できるか」です。東京23区の上乗せ条例も、大阪の特区民泊も、その話でした。旅館業法の許可を取ると、営業日数の話は消えます。代わりに効いてくるのが、次の2つです。
ひとつは、フロント(玄関帳場)を置かずに運営できるかどうか。2018年の法改正で、ビデオカメラによる本人確認やスマートロックなどのICT設備を備え、緊急時におおむね10分程度で駆けつけられる体制があれば、施設内に人を常駐させなくてよいことになりました。ただし、この「10分」の解釈は自治体ごとにまったく違います。
もうひとつは、物件の取得価格。旅館業法の許可は物件に紐づくので、そもそも買える価格帯かどうかが先に決まります。
以下では、この2つの軸で東京・大阪・福岡を順に見ていきます。
都市別の違い:東京・大阪・福岡
東京:需要は厚いが、無人で回せない区が多い
東京の宿泊需要は間違いなく日本で一番厚い。ただ、旅館業法で無人運営を組もうとすると、区ごとの条例が壁になります。港区・新宿区・渋谷区のようにICT代替と10分以内の駆けつけで許可が出る区がある一方で、台東区や葛飾区、千代田区や北区のように施設内への常駐を求める区があります。駆けつけを徒歩10分に限る区もあり、渋谷区は2026年の条例改正で有人フロントを原則とする方向に動いています。
常駐が必要ということは、1室の宿に24時間人を置くということです。5室以上のまとまったホテルなら成り立っても、戸建て1軒や区分1室では人件費で利益が消えます。徒歩10分の駆けつけ要件も、物件が点在すると事実上、物件のそばに拠点を置き続けることになる。東京で小規模に旅館業を組むのが難しいのは、規制が厳しいというより、無人で回す設計が区によっては許されないからです。
そのうえで、物件が高い。需要はあるが、入口の価格と運営の人件費で、小規模事業者には利回りが出にくい市場です。
大阪:特区民泊で膨らみ、そして止まった
大阪は逆で、参入が簡単すぎた市場です。特区民泊は旅館業法より緩い基準で365日営業できたため、全国の特区民泊の9割以上、約7,000施設が大阪市に集まりました。同じエリアに同じような部屋が大量に供給されれば、価格競争になります。
その特区民泊が、2026年5月29日で新規受付を終了しました。ゴミや騒音の苦情が理由です。ここで注意したいのは、既存施設はそのまま営業を続けられること。新規参入は止まりましたが、7,000施設が消えるわけではないので、競争環境がすぐに緩むわけではありません。むしろ、これから大阪で始める人は旅館業法の許可に流れるので、その窓口が混み合う可能性のほうが高いと見ています。
大阪の市場は「規制で終わった」のではなく「供給過多になって、蛇口が締められた」と読むのが正確だと思います。
福岡:車で10分の駆けつけで、戸建てが買える

福岡市は2016年に旅館業法施行条例を改正して、共同住宅での簡易宿所営業を認めるなど、旅館業のハードルを下げてきた経緯があります。玄関帳場を置かない場合の設備要件も市の手引きに明記されていて、ICT代替での運営が制度として想定されています。
東京との一番の違いは、駆けつけの考え方です。福岡市では、車で2.5km圏内から10分程度で駆けつけられる体制であれば認められます。徒歩10分と車で10分では、1つの拠点でカバーできる範囲がまるで違う。物件が市内に点在していても、事務所を1か所置けば回せる。私たちが多くの物件を少人数で運営できているのは、この前提があるからです。
物件価格は参考程度に見てほしいのですが、新築の木造一戸建てで並べると、差の大きさは伝わると思います。
| 新築木造一戸建て平均価格(東京カンテイ調査・2025年) | 目安 |
|---|---|
| 東京23区 | 1億円超 |
| 福岡県 | 3,800万円前後 |
福岡市内は県平均より高いので、実際の差はこれより縮まります。それでも、東京で区分1室を買う予算で福岡なら戸建てが買える、という構図は変わりません。戸建ては家族連れに選ばれやすく、ホテルとは直接競合しにくい。以前の記事で書いた戸建ての強みが、福岡では価格の面で現実的な選択肢になります。
需要側の数字は、最後の補足にまとめました。
福岡固有の条件:空港の高さ制限と、出口・弱点
都市別の比較とは別に、福岡には固有の条件があります。供給側の構造と、出口・弱点です。
空港が近すぎて、巨大ホテルが建たない
福岡には、あまり語られない構造的な特徴があります。空港が都心に近すぎるために、航空法で建物の高さが厳しく制限されていることです。博多駅周辺で60メートル前後、天神で70メートル弱。天神ビッグバンの特例区域だけ100メートル台まで緩和されましたが、それでも東京や大阪の都心と比べれば低い。全国の大都市のなかで、福岡の高さ制限はとりわけ厳しいと言われています。
これは民泊にとって追い風です。東京や大阪では、大資本が数百室から千室級のタワーホテルを建てて、一気に供給を積み増せます。福岡ではそれができない。ホテルの客室数自体は増えていますが、1棟あたりの規模には天井があり、都心の土地も限られる。供給の伸び方に上限がある市場だ、というのが私たちの見立てです。
POINT高さ制限は、民泊にとっての参入障壁
空港の利便性と引き換えに、福岡の都心には超高層ホテルが建ちにくい。宿泊需要が伸びても供給が同じ速さで追いつけないぶん、戸建てや小規模施設が担う余地が残ります。単価ではなく、供給構造で見ると福岡の位置づけが分かります。
出口と、正直な弱点

投資で一番考えるべきなのは、うまくいかなかったときに何が残るかです。ここで福岡は意外と強い。福岡市の募集賃料は2025年に単身向けで2割以上、ファミリー向けでも2割近く上がり、上昇率は東京23区や大阪市を上回りました。旅館業をやめても、普通の賃貸に戻せば家賃収入に戻れる。戸建てなら、宿泊施設としてではなく実需の住宅として売却もできます。逃げ道が複数あるというのは、参入するときの安心感がまったく違います。
一方で、弱い部分もはっきりあります。
- 宿泊単価が低い:東京・大阪と同じ稼働率でも売上は下がり、清掃費のような固定的な費用の比率が重くなる
- ホテルは増えている:超高層は建たないが、中規模ホテルの開業は続いていて、福岡市の客室は2019年比で6,000室以上増加。2名向けの価格帯では正面からぶつかる
- 観光資源の厚みで劣る:京都や東京ほど「見るもの」が多くないので、滞在日数は伸ばしにくい
- 規制はいつでも変わる:大阪も数年前まで最も寛容な都市だった。苦情が増えれば福岡も後を追う
結論:福岡で旅館業をやるなら、どう組むか
福岡で旅館業をやるなら、ホテルが埋められない需要、つまり家族連れやグループ向けの戸建て・大型物件に寄せたほうがいい。私たちが戸建て中心なのは、この判断からです。
最初の2つの軸で並べ直すと、次のようになります。
| 都市 | 無人運営が成り立つか | 物件と供給 | 私たちの見方 |
|---|---|---|---|
| 東京 | 区によって施設内常駐や徒歩10分の駆けつけが必要 | 戸建てで1億円超。タワーホテルで供給を積み増せる | 需要は厚いが、小規模では利回りが出にくい |
| 大阪 | 特区民泊の新規受付が止まり、旅館業法の許可窓口に流れる | 既存の特区民泊約7,000施設は残る | 競争はすぐには緩まない |
| 福岡 | 車で10分の駆けつけで足りる | 戸建てが東京の3分の1程度。高さ制限で供給に上限 | 家族・グループ向けの戸建て・大型物件に寄せる |
そのうえで、物件を決める前に確認しておきたいのは次の点です。
- 物件のある自治体の駆けつけ要件。施設内常駐か、徒歩10分か、車で10分か。条例が変わる方向にないか
- 拠点(事務所)から物件までの距離が、車で2.5km圏内・10分程度に収まるか
- 旅館業をやめた場合の出口。賃貸に戻せるか、実需の住宅として売却できるか
- 2名向けの価格帯で中規模ホテルと正面からぶつからない物件タイプか
- 単価が低い前提で、清掃費など固定的な費用の比率が成り立つか
そして、近隣に迷惑をかけない運営を続けること自体が、福岡の参入しやすさを守ることになると考えています。
補足:福岡の需要側の数字
需要側も薄くありません。福岡空港は地下鉄で博多駅から2駅、国際線の旅客数は2025年度に900万人を超える見通しで3年連続の過去最高。福岡県の外国人延べ宿泊者数も2024年に690万人泊まで伸び、前年から4割近く増えて全国6位に入りました。釜山から1時間、ソウルから1時間半。週末に家族で来て月曜に帰れる距離なので、一度来た人が繰り返し来る。私たちのゲストも韓国・台湾からの家族連れが中心で、リピートが多いのはこの近さのおかげだと感じています。



