民泊・簡易宿所に必要な許可・届出・資格まとめ(2026年版・福岡市)
「民泊を始めたいけれど、どこに何を出せばいいのか分からない」。ご相談で一番多いのがこの質問です。関わる役所が保健所・消防・建築・税務と分かれていて、しかも制度によって窓口が違うので、全体像が見えにくい。この記事では、福岡市内の物件を例に、民泊・簡易宿所を始めるまでに必要な許可・届出・資格を一枚の地図にまとめました。2026年9月時点の情報です。制度は変わるので、最終確認は必ず各窓口でお願いします。
SUMMARYこの記事の結論
- 入口は「民泊新法の届出」「旅館業法(簡易宿所)の許可」の2つ。福岡市は特区民泊を実施していない
- 制度が違っても、消防・建築・管理規約・税務は共通で関わる。順番は「用途地域 → 建物 → 消防 → 保健所(または県)」
- 個人に必要な国家資格はない。ただし消防設備の工事や用途変更の設計には有資格者が要る
入口は2つ:届出か、許可か
福岡市の物件で宿泊事業を始めるなら、選べる制度は次の2つです。
| 制度 | 手続き | 窓口(福岡市の物件) | 営業日数 | 手数料 |
|---|---|---|---|---|
| 住宅宿泊事業法(民泊新法) | 届出 | 福岡県 生活衛生課(民泊制度運営システムで電子届出) | 年180日まで | なし |
| 旅館業法(簡易宿所営業) | 許可 | 福岡市 各区保健所 衛生課 | 365日 | 22,000円 |
意外と知られていないのが、民泊新法の届出先が福岡市ではなく福岡県だという点です。福岡県は県内全域の届出を県で受け付けています。一方、旅館業の許可は市の保健所です。同じ物件でも、制度によって行く役所が変わります。
なお、大阪などで知られる特区民泊(国家戦略特区法)は、福岡市では実施されていません。大阪市も2026年5月29日で新規受付を終了しています。
POINT福岡県・福岡市には民泊新法の上乗せ条例がない
東京23区や京都市のように、曜日や期間で営業をさらに制限する条例は、2026年9月時点で福岡県・福岡市にはありません。ただし条例は自治体の判断でいつでも制定できるので、最新の状況は届出前に県の窓口で確認してください。
制度に関係なく関わる法令

どちらの制度を選んでも、次の4つは必ず通ります。
消防法
民泊新法の届出にも旅館業の許可申請にも、消防署が発行する「消防法令適合通知書」が必要です。戸建てや住戸単位で見て、家主が同居しない(家主不在型)か、宿泊室の床面積の合計が50㎡を超える場合は、消防法上「宿泊施設(5項イ)」として扱われます。この場合、自動火災報知設備・誘導灯・消火器(延べ床150㎡以上など)・防炎物品が必要になり、設置後は機器点検が年2回、報告が年1回です。
マンションの1室で始める場合は注意が必要です。住戸の用途で棟全体の用途が決まるため、1室が宿泊施設になると棟全体が複合用途となり、共用部にも設備が及ぶことがあります。管理組合の合意が取れずに止まる、いちばん多いパターンです。
民泊新法は「住宅」でないと届出できない
民泊新法の届出ができるのは、登記上「一戸建ての住宅」「長屋」「共同住宅」「寄宿舎」となっている建物だけです。届出には不動産番号が必要なので、未登記の建物では届出そのものができません。店舗兼住宅の場合、店舗部分を届出住宅に含めることもできません。
さらに、届出住宅は「現に人の生活の本拠として使用されている家屋」「入居者募集中の家屋」「随時居住の用に供されている家屋」のいずれかである必要があります。居住といえる使用履歴が一切ない民泊専用の新築投資用マンションは、ここに該当しません。物件を買ってから気づくと打つ手がないので、いちばん最初に確認してください。
建築基準法・都市計画法
簡易宿所は建築基準法上「ホテル・旅館」への用途変更にあたります。用途変更する部分が200㎡を超えると確認申請が必要です(2019年6月の改正で100㎡から200㎡に緩和)。200㎡以下でも、2方向避難や非常用照明などの防火避難規定には適合させる必要があります。そして、検査済証のない建物は原則として用途変更できません。中古物件を買う前に、検査済証の有無を必ず確認してください。
民泊新法の届出住宅は建築基準法上「住宅」のままなので用途変更は不要ですが、国土交通省の「民泊の安全措置の手引き」に基づく非常用照明器具などは必要です。
用途地域も先に見ておきます。福岡市の場合、簡易宿所(ホテル・旅館)を出せないのは、第1種・第2種低層住居専用地域、第1種・第2種中高層住居専用地域、工業地域、工業専用地域です。第1種住居地域は3,000㎡以下に限って可、第2種住居・準住居・近隣商業・商業・準工業は可です。地区計画や建築協定による立地規制がかかることもあります。民泊新法なら住居系の地域でも可能です。用途地域は「福岡市Webまっぷ」で調べられます。
管理規約・所有者の承諾
分譲マンションでの簡易宿所は、「規約で禁止されていないこと」では足りません。福岡市では、管理規約に旅館業の実施を明確に認める条項があることが必要で、記載がない場合は「規約違反かどうか不明」として扱われます。この場合は、管理組合に確認したことがわかる書類(理事長名の確認書)を出すか、規約を改正することになります。
注意したいのは、2017年8月改正のマンション標準管理規約にある「住宅宿泊事業に使用することができる」という条項です。これは民泊新法を許容したものであって、旅館業を認めたものとは扱われません。民泊新法ならこの条項で足りますが、簡易宿所には使えません。
提出するのは、管理組合の理事長が現に有効な規約である旨を記載日入りで書き、署名押印したもの(記載後3か月以内)です。賃貸物件なら、民泊新法・旅館業法のどちらでも所有者の承諾書(作成後3か月以内)が要ります。
税務とごみ
福岡市内の宿泊には宿泊税がかかります。1人1泊の料金が2万円未満なら200円、2万円以上なら500円で、いずれも福岡県税50円を含んだ額です。福岡市域内では市が一括して課税・徴収するため、県に分けて納める必要はありません。旅館業の許可業者だけでなく民泊新法の届出業者も特別徴収義務者で、経営を始める日の5日前までに経営申告書を出し、毎月分を翌月末までに申告納入します。
なお、納期限までに申告納入した宿泊税額の2.5%が宿泊税報償金として交付されます(1施設あたり上限200万円、12月交付)。口座登録の依頼書を出していないと受け取れないので、開業時に忘れずに。
民泊のごみは事業系一般廃棄物の扱いになり、福岡市では家庭ごみの収集には出せません。許可業者との契約か自己搬入が必要です。開業後に指摘されることが多いので、開業前に手配しておきます。
進める順番
役所を回る順番を間違えると、後戻りが増えます。おすすめは次の順です。
| 順 | やること | 窓口 | 目安期間 |
|---|---|---|---|
| 0 | 登記上の建物用途・不動産番号の確認(民泊新法の場合) | 法務局/登記事項証明書 | 即日〜数日 |
| 1 | 用途地域・地区計画の確認 | 都市計画課/Webまっぷ | 即日〜数日 |
| 2 | 検査済証・管理規約・所有者承諾の確認 | 建築審査課/管理組合/所有者 | 数日〜1か月 |
| 3 | 消防の事前相談 → 設備工事 → 適合通知書 | 各区消防署 予防課 | 2〜6週間程度 |
| 4 | 近隣への周知(共同住宅は申請3週間前〜1週間前) | 自ら実施 | 2〜3週間 |
| 5a | 民泊新法の届出 | 福岡県 生活衛生課 | 受理まで1〜2週間程度 |
| 5b | 簡易宿所の許可申請 → 現地調査 → 許可 | 各区保健所 衛生課 | 申請から許可まで通常14日程度(土日祝を除く) |
| 6 | 宿泊税の経営申告・開業届・ごみ契約・OTA掲載 | 市税務課/税務署/許可業者 | 即日〜2週間 |
消防と建築は並行して相談し、適合通知書を取ってから届出・申請に進みます。簡易宿所の場合、福岡市では事前相談が予約制で、平面図を持って各区の保健所に行くところから始まります。施設調査は約14営業日です。
福岡市で簡易宿所を選ぶときのポイント
福岡市は2016年12月に旅館業法施行条例を改正し、フロント(玄関帳場)の代わりに「管理事務所」方式を認めました。これで、マンションや小規模な戸建てでも簡易宿所の許可が取れるようになっています。
玄関帳場を置かない場合の主な要件は次のとおりです。管理事務所を営業施設へ10分以内に駆けつけられる範囲に置くこと(実測距離と移動手段で審査。徒歩1分80m、自転車1分180m、バイク・自動車1分250mが目安)。管理事務所は福岡市外には置けず、車両など容易に移動できるものも認められません。各客室に管理事務所と連絡できる通話機器を置くこと。営業施設の出入口(住居と混在する場合は各客室の玄関付近)にビデオカメラを設置し、出入りする者の顔が認識できる画質で72時間以上録画すること。その映像を管理事務所のモニターに常時表示し、確認し続けること。多言語の安全確保マニュアルを各客室に備えることです。
非対面でチェックインする場合は、これとは別に、営業施設の近くに本人を確実に確認できる設備(カメラ付き専用機やタブレット、宿泊者自身のスマートフォンで使うアプリ等)が必要です。AI判定は、事前登録した顔写真や身分証の顔写真と照合する「顔認証」方式のみ認められています。
客室の延床面積は33㎡以上(宿泊者10人未満なら1人あたり3.3㎡以上)が基準です。学校(大学を除く)・児童福祉施設のほか、図書館・児童公園・市民センターなどの社会教育施設の周囲おおむね100m以内では許可されない場合があります。この場合は関係機関への意見照会が入るため、許可までの日数も延びます。
資格は要るのか
個人が民泊や簡易宿所を営むのに必要な国家資格はありません。ただし、周辺で有資格者が必要になる場面はあります。
- 自動火災報知設備や誘導灯の工事:消防設備士・電気工事士
- 建物の収容人員が30人以上:防火管理者の選任
- 用途変更の設計や既存建物の法適合調査:建築士
- 家主不在型の民泊新法:住宅宿泊管理業者への委託が義務(登録免許税9万円、有効期間5年。登録には実務経験・資格・登録実務講習のいずれかが必要)
手続きを行政書士に依頼する場合の目安は、2025年11月時点の民間調査で、民泊新法の届出が約20万円、簡易宿所の許可申請が30〜40万円程度です。自治体の手数料や図面作成費は別途かかります。
POINT「届出だけ」で終わる制度ではない
民泊新法は用途変更が不要で手数料もなく、簡単に見えます。ただ実際には、消防の適合通知書、非常用照明、家主不在型なら管理業者への委託、宿泊税の特別徴収、事業系ごみの契約まで含めて「届出」です。ここを見落として開業後に指摘されるケースが少なくありません。
まとめ
- 福岡市の物件は「民泊新法の届出(窓口は福岡県)」か「簡易宿所の許可(窓口は市の保健所)」の2択
- 消防法・建築基準法・管理規約・宿泊税・事業系ごみは、どちらの制度でも必ず関わる
- 順番は用途地域 → 建物 → 消防 → 保健所または県。消防と建築は並行して相談する
- 検査済証のない中古物件は簡易宿所にできない。購入前に確認する
- 個人に国家資格は不要。ただし消防設備工事・用途変更・管理業者委託には有資格者が関わる
- 自治体の条例や手引きは更新される。この記事は2026年9月時点の情報として読み、最終確認は窓口で
許認可の要件は物件と自治体ごとに違い、書類の準備だけでも数週間かかります。福岡市での申請や、「この物件で旅館業の許可が取れるか」の判断は、グループの行政書士法人アルマデパートナーズにご相談ください。民泊・旅館業の許認可を専門とする行政書士が、用途地域や建物の確認といった事前相談から、消防・保健所の手続き、許可取得まで一貫して対応します。
参考にした主な一次資料:観光庁 民泊制度ポータル、福岡市 旅館業の営業について、福岡県 住宅宿泊事業の届出方法、福岡市消防局 民泊について、福岡市 宿泊税の手続き



